お一人様の終活、契約で託す 身元保証や遺言の実行

日経新聞の土曜版には毎週「マネーのまなび」という数ページにわたる特集が連載されています。高齢者向けの終活やお金に関する記事も多く掲載されていて(特に田村正之さんの記事はレベルが高い)ためになるのでおすすめです。

記事では時おり行政書士のコメントなども掲載されており、我々行政書士も民事法務の分野でだんだん認知されてきているなと感じます(行政書士はもともとは行政の許認可申請がメイン業務ですが、近時は遺言書や契約書など権利義務に関する書面を作成する民事法務も業務の柱になっています)。

お一人様が周囲に迷惑を掛けな いようにするには「自分が亡くなったあとの手続きを生前に準備しておくことが大切」と行政書士の吉村信一氏は話す。 選択肢の一つが死後事務委任契約だ。死後に必要な手続きについてあらかじめ第三者と契約を結び、希望に沿って実行してもらうよう託す。 司法書士、行政書士といった専門家やNPO団体、専門の業者・金融機関に依頼するのが一般的だ。(日経新聞7月3日版「お一人様の終活、契約で託す 身元保証や遺言の実行」より)

権利義務に関する書面にもいろんな種類がありますが、上記事のような死後事務委任契約財産管理委任契約遺言書などの「権利者同士の利益のぶつかり合い」を前提としない書面は、まさに行政書士の守備範囲です。

対して、売買契約書や賃貸契約書などの「権利者同士の利益のぶつかり合い」を前提とする書面はトラブルを事前に予防するという意味で紛争解決の専門家である弁護士に依頼することが最善手といえましょう。

専門家も使い分けが大切です。弊所はどちらにも迅速に対応しております!(^^)

銀行大手がペットのための遺言書作成・保管・執行サービス提供開始

ペットを飼っている人は自分が亡くなったあとのペットのことが心配なもの。

そんなときに使えそうな銀行の遺言信託サービスが先日から始まっているようです。
→三井住友信託銀行の遺言作成・保管・執行サービス「遺言信託(ペット安心特約付)

これはペットのための遺言書を作成し、保管、執行までを行ってくれるサービスで、猫や犬を飼育している人が亡くなってしまった場合、その後お世話をしてくれる人にペットを引き渡したり遺産から飼育費用を渡すなど、事前に作成した遺言書に沿って飼い主さんの要望を執行してくれるというもの。

出典: cat-press.com

ペットに遺言を残しても法的な効力はありませんが、もしものときに備えて、ペットをお世話してくれる人に、ペットのお世話を条件に、遺言で財産を遺すことはできます(これを負担付遺贈といいます)。

上記の三井住友信託銀行の遺言信託サービスはこの負担付遺贈を内容とした遺言の作成と、遺言書の保管、亡くなった後の執行までトータルでサポートしてくれるというもの。

ただ、銀行ですのである程度の手数料は覚悟が必要です(パンフレットによると銀行に支払う手数料だけでトータルで130万〜数百万円。これに加え、謄本等を取り寄せる場合の実費や、司法書士や税理士などの各士業に支払う手数料も別途かかります)。ですので、多少費用がかかってもお付き合いのある銀行を信頼して丸投げできる裕福層がターゲットといっていいでしょう(ちなみに銀行がペットの世話をしてくれるわけではない点もご注意)。

うちはそんなにペットにかけるお金はないよ、という場合は、弁護士や行政書士などの専門家に相談しながら自分で負担付贈与を内容とする遺言書をつくることを考えてみてもよいと思います。

ただ、遺言は一方的な意思表示ですので、遺言を遺された相手に拒否されてしまえばそれまでです(これを遺贈の放棄といいます)。そうなると遺言を残した意味がなくなります。そこで遺言では心配な場合は、生前にペットの世話を頼む人との間で、自分が亡くなった後にペットの世話をしてくれるよう契約しておくこともできます(これを負担付死因贈与契約といいます)。契約であれば一方的に破棄はできません。

また、最近では信託契約を使って、自分が元気なうちからもしものときのペットの生活をきめ細かく定めることもできるようになりました(いわゆるペット信託と言われています)。この方法であれば、遺言や死因贈与と違って、生前から契約の効力が発生しますので、例えば病気でペットの世話ができなくなったような場合でも安心です。

このようにペットの相続対策にはいろいろな方法がありますが、いずれにせよ、まずは愛犬・愛猫さんたちのために、もしものときに備えたノートを書いておくことをおすすめします。
弊所のエンディングノートを使ってくださってもよいですし、ダイソーのもしもノートもおすすめですよ。

弊所でも、ペットのための遺言作成から遺言執行、死因贈与契約や信託契約のご相談まで幅広くお手伝いしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。(^^)

来月7月1日から生命保険契約照会制度が開始します

国内の全ての保険会社が加入する業界団体である生命保険協会は超高齢社会への対応の一環として、顧客向けの「生命保険契約照会制度」を創設、来月7月1日から制度の運用が開始されます。これまで災害時にのみ利用されていた照会制度を平時でも利用できるように一本化したものだそうです。

今回創設する「生命保険契約照会制度」では、契約者・被保険者がお亡くなりになった場合、認知判断能力が低下している場合において、法定相続人、法定代理人、3親等内の親族などからの照会を生命保険協会が受け付け、照会対象者に関する生命保険契約の有無について一括して生命保険各社に調査依頼を行い、生命保険各社における調査結果をとりまとめて照会者に回答いたします。

出典: www.seiho.or.jp

相続手続きが始まると被相続人(亡くなった方)が入っていた生命保険などを調べるのに手間取ることがあります。そんな場合、来月からはこの照会制度を利用すれば一発で全保険会社に検索をかけて保険加入の有無を調べてくれるのでかなり便利になりそうです。

契約者などが死亡した場合に加え、認知症などで判断能力が低下している場合も制度利用が可能。利用料は平時の場合は税込み3000円(災害時は無料)。利用者は法定相続人や親族、法定代理人などの一定の人に限られます。照会制度で加入の有無がわかれば、あとは個々の保険会社に問い合わせることになります。

普段から保険証書などはしっかり管理しておくことはもちろんですが、もしものときでも時間をかけずに保険加入の有無を検索できるのはとても助かりますね。

相続争い、高止まり続く

相続を巡る争いは増えている。最高裁判所の司法統計によると、遺産の分割を巡って全国の家庭裁判所に持ち込まれた審判・調停の件数は2019年に1万5842件。20年で1.5倍に増え、近年は1万5千件前後の高止まりが続く。

出典: www.nikkei.com

 

記事では相続争いの高止まりの原因として日本社会の高齢化を挙げています。

2019年の65歳以上の人口は約3589万人で2000年に比べて1.6倍に増えており、遺産の取り決めについて明確にしないまま亡くなり、遺族の話し合いがこじれるケースが増えていると。

そして近年も相続争いが高止まりしてなかなか減らないのは、終活を先のこと、特別なことと考える人がまだまだ多いからかもしれません。

確かに自分の死んだ後のことを考えるのはよほど心に余裕があるときか、自分に死が差し迫ってきたきぐらいですから、毎日を忙しく過ごしている人が終活を考えるのはなかなか難しいと思います。

しかしながら、特にこのコロナ禍で身にしみて感じるのは人の運命というのは全く予想がつかないということ。1年前に元気に話していた身近な人が1年後にこの世からいなくなっている、ということは他人事ではなく誰にでも起こりうるのです。あなた自身にも。

終活は人生を最後まで楽しく過ごすための備えです。

このあたりで一度立ち止まってもしものときのことを考えてみませんか。

※最高裁判所の司法統計はこちらで確認できます(最高裁判所司法統計)。

紀州のドン・ファン元妻の相続関係

数年前に話題になった「紀州のドン・ファン」事件。今日、当時の妻が殺人容疑で逮捕され、メディアの格好のネタになっています。遺産が査定済みのものだけで13億とも言われていますので、しばらくはお茶の間を賑わすのかもしれませんね。

今回の事案をざっくりみると次のような事実があった模様。
・夫はコピー用紙に赤ペンで走り書きの遺言を残していた
・遺言の内容は市に財産を全額寄付するというものであった
・夫の兄弟は遺言の無効を争っている
・妻が夫殺害の容疑者として逮捕された

これを一般化すると論点としては次のようなものが挙げられるでしょうか。
・夫の自筆の遺言は有効か(自筆証書遺言の有効要件)
・夫は市へ全額寄付することはできるか(遺留分制度)
・夫の兄弟に相続権はあるか(相続人の範囲)
・夫を殺害した妻に相続権はあるか(相続欠格)
・相続税は発生するか(寄付と相続税)

逮捕された妻はまだ被疑者の段階ですからここではそれ以上触れることはしませんが、事案全体を相続ネタとしてみるといろいろな素材があって勉強になりそうです。

相続登記の義務化が可決成立

相続で切っても切り離せないのが土地や建物、いわゆる不動産。

不動産は他の財産(動産という)と違って、他人に自分の権利を主張するには、国が公開している帳簿に登録する「登記」という手続きが必要です。

登記をすると、売買契約書など自分が権利を取得したことが分かる書面に登記官が「登記しましたよ」というスタンプを押してくれるのですが、これが「登記済証」すなわち「権利書」となります。この権利書で不動産の権利者であることを確認するわけですね。相続手続では依頼者のご実家にそのような「権利書」があれば探していただくことになります。

もっとも、現在は、登記のオンライン化に伴う平成16年の法律改正でそのような紙の登記済証の制度は廃止されました。代わりに12桁の記号数字の暗号(登記識別情報といいます)が不動産の権利者の確認方法になりました。したがって、平成17年以降に取得した不動産に関してはこの登記識別情報の通知書がいわゆる権利書の役割を引き継いでいます。

そんな不動産登記ですが、実は登記をするかどうかは権利者の権利であって義務ではありません。つまり、不動産を購入したり相続したりしても、その権利を他人に主張するための「登記」をするかどうかは権利者の自由なのです。

しかしそれがために、登記が契約上の義務になる売買の場合はともかく、相続で不動産を取得したときは登記が義務でないため、登記費用や登記の手間を嫌って登記せずに放置されたり、相続人がいない、もしくは決まらずそのまま何代も未登記で放置されることが少なくありません。

その結果、不動産登記簿からでは所有者が確認できない「所有者不明土地」が増えてしまい、その割合がいまや全体の20%を超えているそうです(平成30年版土地白書)。

面積でいうとなんとトータルで九州全土を超えていて、不動産の利活用に支障をきたすということで社会問題化しています。

そこで今般、国会で相続登記の義務化が諮られ、昨日関連法案が参議院を通り成立しました。これによって3年後、2024年から相続登記の義務化が始まる予定です(名義や住所の変更登記も義務化)。

相続登記の義務化で、相続から原則3年以内に登記をしない場合は罰則(10万円以下の過料)が課せられることになります。が、同時に相続登記の簡素化も予定されています。

相続登記は比較的単純な登記ですので、現在でも時間と手間を惜しまなければ相続人が本人のみで申請することは十分可能ですが、法改正によってさらに手間や費用が軽減され、誰でも手軽に相続登記が申請できるようになるのは良いことだと思います。

当事務所でも弁護士と相続アドバイザーが相続登記のサポートをおこなっていますので、相続登記制度改正のフォローは引き続きしていきたいと思います。

遺言を書くことは終活のいいきっかけになる

遺言を書くことは終活のいい気きっかけになりますという話。

正確には、遺言を書こうと考えてみること、といってもいいかもしれません。

このコロナ禍でこれからの生活に不安を抱く人も多いと思います。また突然の感染で万一のことがあったら、と考える人も少なくないでしょう。でもピンチはチャンス。

ここで一旦立ち止まって、これからの人生をどう設計していくのがベストか、リスクに備えるにはなにをすべきか、考えてみるのもいいのではないでしょうか。

そのきっかけになるのが遺言です。

遺言を書くには少なくとも自分の持っている財産と自分の家族・親族に思いを馳せる必要があります。

それが自分の人生の棚卸しに繋がります。

人生中盤から後半に至って、自分の歩いてきた人生を振り返ってみる。さてこれまで歩いてきた人生は自分にとって満足いくものだったろうか。何を成し遂げただろうか。まだまだ続くこれからの人生で何を成し遂げようか。

遺言を書いてみようか、と考えることは、実際に書き上げるまでに至らなかったとしても、その時点での自分の人生を振り返るのにいいきっかけになります。そしてこれからの人生に思いを馳せ、目標達成には何が必要か、リスク回避には何をすべきか、つまり終活を考えることにも繋がるのです。

ぜひ、気軽に遺言を書いてみてください。チラシの裏でもいいですから。